※インタビュー記事(聞き手:庄島瑞恵)
11社が共通意識で取り組むカーボンニュートラル
元々は海外に販路を見出して自社の製品を輸出し、企業を成長させることを目的に集まった佐賀の伝統産業10業種11社が、構想を改めて見つめ直し、未来を見据えたビジョンを構築させ、2021年に協同組合として法人化されました。 企業の存続は地球の自然環境なくしてはあり得ない、と高い目的意識を持って後継者、未来の子ども達のためにどんなことに取り組んでいるのか。協同組合立ち上げ時から事務局長として奔走する山口さんに話を伺いました。
SAGA COLLECTIVE協同組合が始動するまで
企業が各々の努力、事業計画にのっとって事業を展開する中で、メーカーにとって販路の開拓、拡大は大きな課題の一つです。佐賀に本社を置くメーカーも長い年月をかけて切磋琢磨しながら企業を成長させてきました。企業の海外展開をサポートする機構にJETROがありますが、ここを媒介にした「出会い」が新しい一歩へのきっかけになりました。
JETROの東京本部から2017年に転勤で佐賀事務所に配属された山口さんは、支援企業の一つだったレグナテックの樺島社長から「異業種との横の繋がりをつくって、情報交換や事業に活かしあおう」といった提案があり、2018年にJETROが幹事になって異業種交流会が実現。それからは10業種11メーカーが協働イベントを開催したり、「SAGA COLLECTIVE」というブランド名で商品開発を行ったりと、異業種で繋がることで佐賀の魅力を発信してきました。これからますます総合力を発揮して生産や販売にも力を入れて行こうとしていた矢先、世界は新型コロナの渦に巻き込まれ、これまでの日常が奪われてしまいました。
同じころ、山口さんに転勤の辞令が。「私は2020年にインド駐在の辞令に従い、インドに渡った直後にコロナで日本に帰国することになり、帰国と同時に退職を決意しました」と山口さん。 ここから新たなステージへ。佐賀在任中に話にあがっていたSAGA COLLECTIVEを法人化する話が本格的に進むというタイミングと重なり、山口さんは佐賀への移住を決意しました。それから、法人化を進めるための準備を整え、2021年にSAGA COLLECTIVE協同組合が始動、山口さんは事務局長に就任しました。
コロナ禍で生まれた「時間」。
伝統産業を担う企業が本当にやるべきことは何かを考える時間に
本来であれば、歴史ある産業からブランディングされた「いいもの」を世に送り出し、輸出で販路を拡大して売り上げを伸ばしていくために活力でみなぎるはずが、時はコロナ禍。海外はおろか県外出張にも行けず、販路拡大の路線は休止せざるを得ない状況になりました。先が見えない中、立ち止まったことがきっかけで、メンバー全員で話し合う時間がつくれるようになりました。できた時間で話をしている時、「販路開拓だけをやっていいのだろうか」という話にもなり、「循環と継承」について話し合いを進めていきました。
「私たちのグループは社長世代がだいたい50~60代、後継者世代に30代が多く、次の世代にしっかり継承していくことは大事だと認識しています。継承しても継続できなければ企業は衰退していきます。そこで、販売だけではなく、循環についても意識して活動したほうがいいのではというふうに話が深まっていきました」(山口さん)
企業が事業活動を行うと、当然CO2が排出されます。それを自然に還元することによって再循環するサイクルをつくるために、最終的にSAGA COLLECTIVEの事業概要の方向性が見えてきました。
まずは基本の3本柱を①エシカルを中心に、②物販、③体験としました。
エシカルには「倫理的な」という意味があり、組合では人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動と位置づけしました。かつ、エシカルを「地球に優しい」「人に優しい」「社会に優しい」の3つの軸で考え、共通の判断基準を設けました。
さらには、参加企業全体でカーボンニュートラルに着手することを目標に掲げて、各社で実践に移すことになりました。こうした背景には、佐賀で起きた大雨被害や地球の異常気象がありました。「今も輸出は大事だと思っていますが、そもそも、商品をつくるための海苔やお茶がとれなくなったらマーケティングとかブランディングどころではありません。佐賀の伝統産業を衰退させないために、もっと根底の部分に目を向けようという流れになっていきました」(山口さん)
これまでの取組実例
各社それぞれのやり方でカーボンニュートラルを目指す
SAGA COLLECTIVEプロデュースの商品は全てカーボンオフセットに
参加企業各社の既存商品をリブランディングし、ゼロカーボンのブランド専用ロゴシールをデザイン、商品に貼ることでシリーズとして統一感を出し、簡易包装のパッケージでブランドコンセプトを表現しました。ゼロカーボン商品であることを打ち出したことで、SAGA COLLECTIVEの商品が佐賀県やサガン鳥栖、大学や大手金融機関、保険会社のイベントやコンペティションのノベルティとして採用され、この取り組みに対する企業や組織の関心の高さを測る指針にもなっています。また、「エコチャレンジ2024」(主催:佐賀県脱炭素社会推進課)の入賞賞品としても採択され、カーボンニュートラルへの認知度拡大に寄与しています。


各社の状況を把握し、CO2削減を目指す
取り組みの第一歩は「知ること」。1年目はお互いの会社を訪問して、実際に現場を見ながら説明を受けて、話し合いで策定した3つの柱になぞらえて考えていきました。「11社あるので、月に1回、1社ずつ訪問してまわりました。そこで、地球に優しいこととか、人に優しいこと、社会に優しいことを見せ合ったり、経営計画などの数字も見せ合ったりして、情報を共有しました」(山口さん)
会社訪問を実施したおかげで、各社間の意識が変わり、カーボンニュートラル実践のいい起爆剤になりました。 CO2の排出量に関しても、企業活動でどれだけ環境に負荷がかかっているかを事務局で「見える化」しました。「各社からガスや重油、ガソリンなどの使用量が分かるものを出してもらって、共通の計算方法でCO2の排出量を出しました。電気の使用量についても、電力会社やプランによって変わってくるので、統一して比較ができるように事務局で計算しました」(山口さん)


客観的にCO2の排出量が認識できたことで、次に起こすアクションが見えてきました。例えば、酒造りを行う企業では重油を多く使っていたところを一部電力で代用するとか、家具の製作で工具を動かすために電力量が多かったりする企業の場合は、社内の電球を全部LEDに変え、昼休みは電源を落とすなど、やれることを実践してみたところ、11社合計で1600t排出していたのが2年間で300tの削減につながりました。
カーボンオフセットは2年間で615.3tに
「佐賀県有林」「福岡県久山町有林」のJクレジット、「佐賀県唐津市串浦の藻場再生」のJブルークレジットといった地元の自然由来のカーボンクレジットを選んでカーボンオフセットを実行。2年間で615.3t分にも及び、杉の木約10万本分の森を守っていることになります。広さでいうと、100ha。東京ディズニーランドとディズニーシーを足したぐらいの面積になります。組合では、メンバー企業で排出するCO2量を数字としてきちんと認識し、それをどういう場所で吸収しているのか、肌で感じることを大切にして、プロジェクトを実施している現地まで足を運び、お互いの考えを理解しあった上で購入して、守り続けています。


カーボンニュートラルの実践例をより多くの企業・人に広げるミッション
11社が一つになって自然環境を守るために真剣に解決策を見出して、それぞれの手段でカーボンニュートラルへとシフトして、どのような変化が見られたのでしょうか。CO2削減に繋がる設備導入、再生可能エネルギーへの転換、廃棄ロス削減の取り組みを実施した結果、11社中7社がカーボンカーボンニュートラルを実現し、残る4社もSAGA COLLECTIVEに関わる排出量をカーボンオフセットしているため、SAGA COLLECTIVEの活動全体ではカーボンニュートラルとなりました。
こうした先進的な例を学びたいと見学・視察の依頼・問い合わせが増えてきたことを契機に、法人として持続していくためのビジネスプランも打ち出しています。
「経済団体や自治体などから研修の依頼があったら、移動距離を元にCO2量を算出して、自分たちが支援するクレジットを買ってもらってオフセットするというカーボンニュートラルな視察を実施したこともあります」(山口さん)
視察で来た人にもカーボンオフセットを体感してもらって自然を守る認識を深めてもらう工夫をすることで、一人、また一人と賛同者が増えていくことを期待できます。
「今では何もかもがCO2に見えるようになりました」とほほ笑む山口さんは、間違いなく11社の企業のカーボンニュートラル化を引っ張ってきた立役者です。そんな山口さんは、SAGACOLLECTIVEでの取り組みで得た知見を他企業や住民に浸透させていくことも次代へのミッションだと感じています。 実際に、SAGA COLLECTIVEが受託した取り組みで、サガン鳥栖のホームゲームで、どれだけのエネルギーを使い、どれくらいのゴミが出たのかデータ化を行いました。また、サガアリーナで開催された大きなイベントでのエネルギー使用量を数値化、ゴミに関しては廃棄物回収業者からジャンル別に重量を調査してCO2の排出量を計算しました。データを把握するだけでなく、エネルギー削減のための施策立案、実施、検証まで行い、社会全体でカーボンニュートラルに向かうための方向性を示唆しています。

自然環境を守ることは企業の存続を維持し、守ること。山口さんは歩みを止めることなく、住民向けに学生とコラボして学祭で出展ブースを設けて環境教室を行ったり、学生と企業を繋いで何かできないかアイデアを出し合っているところです。
SAGA COLLECTIVEの取り組みを導入したい、どうしたら実行できるのか。実行したいと思っているなら前に進んでみませんか。同組合では研修や視察など、相談内容に合わせたプランでカーボンニュートラル実現に向けたサポートが可能です。
安心して暮らせる地球のために、まずは動き出しましょう!